キッチンは誰のものか? ツンデレなキッチンのこと

吉本ばななさんの本で「キッチン」ってありましたね。あの本に書かれているとおり、キッチンってなんか不思議な魅力があるのです。しかし、魅力とは別に魔力というか、突き放す力も強くって……。

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キッチンが好きです。

いわゆる台所も好きだし、吉本ばななの『キッチン』も好きです。

なんかキッチンって男の子的に言うと「作戦司令室」とか「操舵室」みたいな魅力があるんです。レーダーが並んでて、敵機がピコンピコンと光ってて、操縦桿を握って、ババババババババ、ってな具合に。

自分を料理するときはいつもキッチンの真ン中に立って背筋を伸ばします。で、

「よし、やるか」

と気を引き締める。キッチンって魅力的ですよね。

世の奥様方がキッチンにこだわり、キッチン用品にこだわる理由は120%わかるのでございます。はい。

デレなキッチン

今の家に越してくるとき、訳あって妻より2週間ほど早く、わたしがやってきました。

ヘタだけど料理は嫌いじゃないので、毎日好きなものを料理していました。そして平行してキッチンの整理も進めます。キッチン用品の置き場所を決め、必要なものは買い足し、いつも使うものは手の届きやすい場所に……。

まさに『作戦司令室』でして、「へらをだせ!」「火力全開」「水を足せ! 焦げるぞ」「そこで包丁だ!」ってな具合です。

そんな要求にキッチンは従順に答えてくれます。

そうやってわたしとキッチンはタッグを組んで、料理を作っていったのでした。

ツンなキッチン

2週間遅れで妻がやってきました。

妻はわたしよりずっと料理が上手だし、もっとうまくなりたいという願望がわたしの1万倍あります。そもそもわたしより料理が好き。

日々の料理は彼女にバトンタッチです。わたしとしてはありがたい限り。おかげさまでご飯はおいしいし、執筆の時間を長く割けるというもの。感謝感謝。

で、我が作戦司令室を彼女に明け渡して、しばらく経ったある日とのこと……

「いなり寿司を作ろう」

と思い立ちました。キッチンの真ン中に立って、背筋を伸ばし、心の中で号令を出します。

「醤油、酒、塩、砂糖、そして油揚げを茹でる鍋を出せ!」

もちろん、自分で出すわけですが……。

ところがどこに何があるか分からない……。妻は妻が使いやすいように調味料の場所を変え、道具の置き場所を変えます。わずかな変化なんです。同じ引き出しだけど、奥の方だったり、手前だったり、ちょっとだけ違う。

冷蔵庫の中身もイメージが湧かなくなってるんです。自分がすべてコントロールしていたときは「あれはここにある」と完全にイメージできていました。それができない。

「あれ? 砂糖ってあるよね〜」

「さいばしってどこだっけ?」

「ざるは……?」

と1つ1つ妻に教えてもらわないと進まない。

——キッチンが言うことを聞かない……。

キッチンに船頭はふたりいらない

キッチンには必ず船頭がひとり。

それがわたしの教訓です。船頭はふたりいらない。わたしはキッチンという船の乗組員になれても、船頭にはなれない。

ひとつひとつ質問しないと料理ができない状況って、楽しさ半減なんですねェ。わたしは妻にそうやって質問しながら料理するのが苦痛ではありませんが、それを苦痛に思う男性はきっとキッチンに入らなくなるのでしょう。

もちろん「そんなこといちいち聞かないでよ」と女性が切り捨てたらもうダメ。

「自分の場所じゃない感」が自分を遠ざけるのかもしれません。

キッチンってツンデレなのです。どんな広いキッチンであろうが、必ずリーダーはひとり。そういうものなんだと理解しました。

そうそう、いなり寿司はちゃんと出来上がりました。

おいしくできたんですよ。これが。

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