《原稿用紙1枚の物語》の書き方に見る「 アイディアの出し方」

原稿用紙1枚分の小説を毎日書いている。良し悪しは読者の判断に任せるが、「よく毎日アイディアが浮かぶね」と言われることは多いし、その点は誇りに思っている。そこで「アイディアの出し方」を実際の作業ノートを見ながら解説してみたい。

「アイディアの出し方」はパターンとして出来上がっている

「アイディアの出し方」とか「発想法」というのは、方法論として数あれど、その根底に流れる考え方はすべて同じだ。手順としては——

  1. 情報を集める
  2. 情報を関連づけて考える
  3. リラックスする/別のことに意識を向ける
  4. さらに考え、アイディアが生まれる

この4段階に尽きる。難しい話なんか抜きにしても、こんな経験は誰にでもあるはずだ。

  1. アイディアを生み出したくて悩む。ネットで色々調べてみる。
  2. 調べた情報をふまえて、さらに悩む。
  3. 全然浮かばないから、諦めて寝る。あるいは別のことをする。
  4. 朝起きたらアイディアが浮かぶ!

わたしが《原稿用紙1枚の物語》で取り組んでいるアプローチも100%このパターンである。

そもそもアイディアとは天才的ひらめきによって生まれるものと思っている人が多いが、アイディアとは生み出し方があり、その手順にさえ従えば、必ず生まれる。

アイディアとは筋肉のようなものだ、とわたしは常々言っている。筋トレさえすれば筋肉が必ずつくように、手順を踏めばアイディアは必ず生まれる

あるいは自販機みたいなもので、正しい順序でお金を入れ、ボタンを押せば出てくるものである。

※ただし、出てきたアイディアをいかにして調理するか? それは別の議論なのは言うまでもない。

実際に私が小説のネタを考えるときのアプローチ

まず私が連載している《原稿用紙1枚の物語》についてお話しておく。

実際の作品は《原稿用紙1枚の物語》で見ていただくとして、この連載では原稿用紙1枚(400字)程度の小説を1日1作品発表している。そしてすべての作品は毎回『お題』を決めて取り組んでいる。

『お題』はたとえば、ライトニングケーブルアイドルなど

『お題』は読者からもらうこともあり、自分の都合のいい『お題』ばかりで書いているわけではない。どんな苦手なお題が来ようともやっつけなくてはならない。そういう悪戦苦闘の末、アイディアを確実に生み出す手順を確立した。

アイディアさえあれば、少なくとも作品を書き上げることができる。アイディアがなければ書き出すこともできない。アイディアがあれば良い小説を書けるわけではないが、アイディアがなければ、駄作でさえも書くことができない。

アイディアとは重要なものだ。

そのアイディアを生み出す手順を紹介する。今回ご紹介するのは『コンビニ』をお題としたときの例だ。実際に考えたときのノートなので、字が汚いのはご愛敬。

実際のノートはこちら。この1ページでたいていは完結するが、苦戦するときは2ページ3ページと続くこともある。

手順3についてはノートを使わないので、この写真には現れないことにも注意。

ちなみに実際に書き上がった作品はこちらだ。

万引き犯の彼女と僕の関係

1. 『お題』を広げる

手順としては「情報を集める」にあたる。

「コンビニの小説……コンビニの小説……」とお題だけを悶々と頭の中で唱えていてもアイディアは生まれてこない。そこで『お題』を広げる

「情報を集める」という作業だが、ここでは資料を漁ったり、ネットで調べるという意味ではなく、自分のなかにある『コンビニ』に関する知識を洗い出すという作業になる。

マインドマップ風に書いているが、マインドマップを意識しているわけではない。

『コンビニ』というお題から、思いつくキーワードを挙げていく。なんにも制限はない。ただ自分に対して「コンビニと言えば?」と質問し、答えていくだけだ。この時点では小説を書くという意識はあまりない。

ノートを見れば分かるが、わたしは『コンビニ』からまず3つのキーワードを挙げた。そこからさらに連想ゲームを続け、広げていく。きっと人によって違う言葉が出てくると思う。

もし『お題』が難解だったり、不慣れな場合、資料を調べて、発想を広げるかもしれない。

2. キーワードを繋げて、物語のきっかけを探す

手順としては「情報を関連づけて考える」にあたる。

先ほど挙げたキーワードをランダムに繋げて、物語のきっかけを探す。きっかけというのは、つまり「おもしろそうな設定」とか「何か起きそうな気配」のことだ。

わたしはこんな感じで書いた。

読みにくいので、清書するとこうなる(自分にしか分からない部分は補足した)

  • パートのおばちゃんに「しゃきっとしろ」と言われるアルバイト (補足:夜勤のアルバイトが朝出勤してきたパートのおばちゃんに言われる。実話。わたしが言われた)
  • 万引きに気付いてしまうバイト
  • 賞味期限切れの弁当を食べるバイト。見つかって怒られる。
  • 道を訊いてくる少年

この時点では「小説のネタ」というほどでなくていい。とにかく「何か起きそうな、物語のきっかけ」を探せば良いだけだ。たとえば「道を訊いてくる少年」だけじゃ、なんにも物語にはならないが、「なぜ道を訊いているのか?」とか「訊かれてなんて答えるか?」とか、工夫すれば物語が生まれそうだ。

そういうきっかけをいくつか探せば良い。

ここで作ったのは小説のネタではなく、ネタの手前の材料だ。

1度試しに材料からネタを考えてみる。しかしネタを思いつく必要はない。

「思いつかなくて良いけど、考えてみる」

私は時間を決めて、それだけ考えたらいさぎよく諦める。

3. 距離を置く

1日1つ書かなくてはならないので、流暢に「思いつかないから寝る」というわけにはいかない。だけど、やっぱり1度はこの話題から離れるべきだ。

風呂に入るとか、散歩をするとか、掃除をする、といった、あまり頭を使わない活動をする。あんまり頭を使う活動をすると、アイディアが生まれる余地がない気がする。

このとき、あまり必死になって散歩しながら「ネタはないか?」と自問しない方がいい気がする。

いっそ考えるのをやめる。だけど、頭の中から自然と「ネタを考えたい」という欲求が浮かぶこともある。そういうときは自然に任せるまま考える。でもストレスは感じるべきじゃない。少しでもストレスを感じるときは、距離を置く。考えるのをやめる。

そうやって考えたり、考えるのをやめたり、気楽に構える。そうしているときに、ネタになりそうな何かが見つかるときがある。

今回の場合は「万引きに気付いてしまうバイト」から連想して、「万引き犯が中学校の同級生の女の子だったが、相手は自分に気付いていない」という設定が浮かんだ。

これ自体もネタという程ではないが、なんかおもしろいことが起きそうな予感があった。そこでこの設定で行こうとだけ決意して、行程4に進む。

4. さらに考え、アイディアが生まれる

この行程をわたしは100%ノートとペンを持ってやる。頭で考えず、手で考える。絶対に、他のことをしながら考えることはない。全力で向き合い、考える。

ここまでの行程で考えたのは——

アルバイトの男性が、万引きに気付く。万引き犯は中学時代の同級生だが、相手は自分に気が付いていない。

という感じ。その段階であとはペンを持って、下書きを始めてみる。ふしぎなもので、書き始めると、いろんなことが整理されていく。そして書くことでアイディアが生まれてくる。

実際に書いたことを、“そのまま” ここに書いてみる。脈絡もなく、書きたいことを書いているので、あらすじでもあり、備忘録でもある。前後の順序もぐちゃぐちゃだ。あまりに意味が通じないところだけは括弧で補足をつけた。

相手は元同級生、相手は(自分に)気付かず。つかまえるか、見逃すか? 「(自分が同級生だと)名乗れば、きっとこの子は別の店で同じこと(万引き)をするはず。どうすればいいか?」 代わりに買ってあげ続ける。そのうちに恋に落ちる。女が男を連れてくる。ショック。それでも(代わりに支払い)続ける。女が結婚系の雑誌を買うのを見て、結婚の決意を知る。その間に別の女性に告白されるが、断る。

これを実質数分で、一気に書き上げた。「代わりに買ってあげる」みたいなポイントは事前に考えていたものではない。書いているうちに、自然と、パッと浮かんで、自然と筆が進んだ。

これができるのは1〜3の行程をこなしたからだ。頭の中にはいろいろアイディアがうごめいている。言語化されていないだけで、書き始めると、何かが浮かんでくるものなのだ。

ただし、このステージに至っても、アイディアが出てこないことがある。

そのときは3からやり直す。それでもダメなら1からやり直す。

この手順でアイディアが出る、と信じていると精神的にラク

《原稿用紙1枚の物語》の連載を初めて、最初の十日ほどは不安だった。

「今日は書けた。だけど明日も書けるのだろうか?」

毎日、不安で不安で仕方がなかった。続けると決めたからにはやめたくないが、書けなければどうすれば良いのか? と頭も胃も痛むような思いがした。

しかし、2週間3週間と続けるうちに、上に挙げたような手順が固まってきた。

早い時で45分。長いときでも3時間で書き上げられる。その自信がついた。

もっと大切なことがある。

手順の1〜3は「アイディアが浮かばなくて良い作業である」であるということを知っていることだ。

アイディアが浮かばなくてはいけないのは手順4である。1〜3の手順はアイディアとは関係ない。筋トレのようなもので、「やればいい」という作業だ。時間を取って、静かな場所で、ただ取り組めば良い。ストレスを感じる必要はない。

全行程でストレスを感じる必要はない、ということだ。苦戦するのは工程4だけである。

このことを知っているだけで、精神的にどれだけラクになるか。

アイディア出しで苦しんでいる人はぜひ知ってほしい。

ちなみに、こういう『アイディアの作り方』をちゃんと学びたい人は、これらの本を全力でオススメする。どれかじゃなくて、すべて読むべきだ。

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世界旅小説 - 2年かけて回った世界の国々を舞台にした読み切り短編小説の連載です(不定期更新)
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