物語を作る人は心理学を読んでみると、学びが多い

心理学というと、訳のわからない難しい学問と思う人もいるかもしれないが、とんでもない。見えもしない「心」というものを理解しようともがく、発展途上の学問なのだ。やろうとしていることは、物語を作る人のそれと似ている。小説を書く人はぜひ読んでいいのではないか? と本気で思っている。

心理学にはまった

始めに白状しておかなければいけないのは、自分の心理学の知識は本を2冊読んだだけの付け焼き刃だということ。だから心理学の学問的知識は皆無と言ってもいい。

しかし、少なくともその2冊を読んで「もっと読みたい」と思うようになったのだから、「おもしろさ」は理解したつもりだ。

読んだ本はこちら。

どちらも臨床心理学者である河合隼雄氏の本である。前者がかなり読みやすく、後者は「もっと知りたい」と思った初心者向けの本だと思う。いきなり後者にとりかかると重いかもしれないので、紹介した順序で読むことをオススメする。

心を理解できるか?

心理学とは、形がなく、見たこともないのに、みんなが存在を認めている、『心』を理解しようという学問だ。特に「心に問題を抱えた」人を治療しようというのだから、その深さは底知れない。

目に見えない「心」が、またもや目に見えない「問題」を抱えている。

わたしには「地球の裏側にいる人の切り傷を治せ」と言われているような難問に感じられる。

臨床心理学者の仕事を見ていると、治療とはいえ、絆創膏を貼ったり、薬を飲ませるわけではない。ひたすら患者が自分自身を理解できるようにサポートするのだ。うまくいけば、そのうち患者が「あ、自分はこういう問題を持ってたけど、もう大丈夫」と乗り越える瞬間が来る。

その瞬間が来るまで、臨床心理学者は患者のサポートを続ける。患者は自分が気付かなかった、新しい自分に気が付かなくてはいけない。

まさに小説が目指すものと近い、とわたしは思った。

小説を読む。「ああ、これ、私のことだ」と共感する。まさに「自分でも気付かなかった自分のことに気付く瞬間」である。それに気付くだけで、癒された気がする。

臨床心理学と同じである。

心理学の「事実は小説よりも奇なり」

小難しい話になったが、初めて「人の心はどこまでわかるか」を読んだとき、強く衝撃を受けたのはこのエピソードだった。

(両親から自立できない問題を抱えた患者に対して)両親からの自立のはたらきが、親殺しとなってあらわれることもあります。

まさにアクションとリアクション。親離れできないから、と強引に親離れを促進したところ、行きすぎて、親を殺してしまったというわけです。

このエピソードを通して、心理学の底知れない難しさと、心理学のパワーを感じた。また世の中の難事件を理解するきっかけにもなると思う。

子育てにも役に立つ心理学

「父性」に関しても、非常に興味深い話があった。

(余談だが、世の中で「母性」が語られることは多いが、「父性」が語られる頻度が少なすぎる気がする)

父性原理には「切断」の機能があります。
ほんとうの母性というのは、仮に子どもが殺人罪を犯そうとも、徹底的に守ろうとします。これに対し、「いくらおれの子であろうと、悪いことをしたら必ず放り出すからな」というのが父性です。

この「切断」という機能の存在は、なんとなくわかる気がする。「父に出ていけ」と言われ、家を出て、成長していく物語は世界中に散らばっている。しかし、次の記述は知らなかった。

たとえば、家庭内暴力で子どもが暴れたりするのにも、父親の父性を鍛えようとしている面があります。そして、父親がそれにきちんとした父性でもって応えられないと、どんどんエスカレートしていきます。

つまり、子どもが「暴れる」ことは、父性(父親とは意味が違うので注意)を鍛える機能がある、というわけだ。ウェイトトレーニングで使う重りと同じで、親を鍛えている。

「ときにはしっかり叱ることも大事」

というのは、心理学的にも非常に的を射た意見である、というわけだ。また

「親は子どもに育てられている」

という格言も良く聞かれるが、これもまた心理学的には正しいとしか言いようがない。

変な子育ての入門書を読むよりも、こうした心理学を学ぶ方が意味深いのではないか? と思う。

小説家と心理学

小説を書く人間は、小説家なりのアプローチで、人の心を理解しようと努力する。

そして、理解しようと、もがく行為から物語が生まれる。

そのもがく行為の中に「心理学」を盛り込んでもいいのではないだろうか?

言うまでもないが、心理学は発展途上の学問である。心理学の本を読んでも「人の心の答え」はない。「心とは何か?」という点でさえ、確固たる答えがないのだ。

小説家と同じ、「人の心を理解したい」という欲求を持った人が、小説家とは違ったアプローチで、歩いている。その道乗りを理解することは、間違いなく為になる。

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