フランス人フォトグラファーにアーティストの見た執念

アーティストと呼ばれる人は執念深い人が多い印象を持っています。まさにその印象を裏付ける人と出会ったので、彼の執念を書いてみようと思います。

フランス人フォトグラファー

彼はパリ在住のフォトグラファー。前は建築関係の写真を撮っていましたが、ここ数年の被写体は “庭” とのこと。

で、彼は妻と日本にやってきて、2週間ほどかけて京都・石川・神奈川と旅していました。そしてぼくは神奈川の観光地にやってきた彼らと出会いました。

「旅行するときは何を重視するんですか? 食べ物? 観光? 会話?」
「庭よ」

と応えたのは妻。

「もう、ずーっと、何時間でも庭の写真を撮るんだから」

とあきれ顔ですが、表情からは幸せそうな気配が漂っていました。

 

寺と出会った

「このあたりでいいお寺はないかな?」

フォトグラファーである夫が言いました。わたしが住む、この場所には有名なお寺はありません。どこの地域にでもあるような小さなお寺がいくつかあるだけ。

「う~ん、小さな寺ならいくつかあるけど……。特に有名でもないし……」
「オッケー、じゃ、ちょっとネットで見つけた寺があるから行ってみるよ」

そう言って彼らはお寺に行ってしまいました。妻と2人で「京都・金沢で庭を堪能してきたっていうんだから、この辺のお寺に行っても感動しないかもねェ」と話していたのですが、その日の夜に改めて会うと夫が大興奮しているのです。

「すごい! これはいい庭だよ。見てくれよ」

と撮ってきた写真を見せてくれます。たしかにキレイで、よく手入れされている庭でした。ぼくたちも行ったことがないお寺なので「今度いこう」と思ったほど。

「いい写真が撮れて良かったですね。で、明日もお庭探しをするんですか?」
「同じ場所に行くよ」

とフォトグラファーの夫が応え、奥さんが「はぁ……」とお手上げのポーズで笑う。

「もっといい写真が撮れるハズなんだよ。今日は時間が悪かったからさぁ」

 

執念!

翌日、天気は雨。

「雨だから今日は無理だね」
「いやいや、雨なら雨でいい写真が撮れるんだよ!」

とふたりは予定通り、同じお寺に行きました。そして宣言通り、数時間かけて写真を撮り、夫はご満悦、妻はあきれ顔。

「ここに来て、二日間同じお寺に通う人を初めて見ました」
「明日も行くよ!」
「でも、明日は東京に向かう日ですよね?」
「その前に寄って、もう少しだけ写真を撮りたいんだ」

と夫が応えると、さすがに奥さんは「No!!」と首を横に振る。それに対して、夫は「Yes!!」と首を縦に振る。何度か「No」「Yes」「No」「Yes」のやりとりをしたあと、奥さんは諦めて、ぼくらに向かって、

「夫婦の旅行なのか、フォトグラファーの出張なのか分からないわ」

と笑っていました。

 

見習うべき執念

ぼくらが住む場所は観光地なのですが、3日もこの場所にいて、同じお寺に通い詰めた人は初めて見ました。アーティストの執念を見た気がして、その執念が足りない自分を恥じたほどです。

何かを作り上げようとするならば、これくらいの執念を持っていないといけないのかもしれません。

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